犬の視力はどのくらい?見えている世界と色の違い、視野や暗視能力を解説

犬の視力はどのくらい?見えている世界と色の違い、視野や暗視能力を解説 犬について
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犬の目にはどんな世界が見えているのか?

私たち人間は、犬がどのように世界を見ているのかを実際に体験することはできません。しかし、近年の研究や視覚科学の進歩により、犬の視力の特性が徐々に明らかになってきました。犬の目は、人とは異なる進化の道をたどっており、それが彼ら独自の「見る力」を形作っています。

本記事では、犬の視力の基本的な仕組みや色の識別、視野、動体視力、夜間視力まで、多角的にその特徴を掘り下げていきます。

人間と比べた犬の視力の精度

まず、「犬の視力はどのくらいなのか?」という問いに対して、最もよく言われるのが「人間よりもぼんやりしている」という事実です。視力の精度を表す数値でいえば、犬の視力は人間の6分の1から10分の1程度とされています。つまり、人が明瞭に見える対象でも、犬にとっては少しぼやけている可能性があります。

たとえば、数メートル先にある小さな文字や遠くの細かな動きは、犬には判別しづらいことがあるのです。しかしこれは「視力=視界のすべて」という誤解からくるもので、視力以外の面では犬は非常に優れた視覚能力を持っています。

犬は何色を見ているのか?色覚の違いと見えない色

よく「犬は白黒の世界で生きている」と言われることがありますが、これは誤解です。犬にも色覚は存在しており、完全に無色の世界ではありません。犬の網膜には、色を感知する「錐体細胞」が2種類しかなく、赤と緑を見分けることができません。このため、犬は主に青と黄色を識別することができ、それ以外の色はグレーや類似色として認識されていると考えられています。

赤いボールを投げたときに、犬がなかなか見つけられないのは、まさにこの色覚の違いによるものです。犬にとって赤色は緑や茶色と区別がつかず、地面に溶け込んでしまって見えにくいのです。一方、青や黄色のおもちゃは比較的視認しやすいため、遊び道具として好まれる傾向にあります。

広い視野と視覚の配置

犬の視野の広さも、人間とは大きく異なる点です。一般的に人の水平視野が約180度であるのに対し、犬は品種によって異なるものの約240度から270度とされており、より広範囲を一度に見渡すことができます。特に猟犬やサイトハウンド(視覚で獲物を追う犬種)などは、より広い視野角を持っています。

この視野の違いは、目の位置にも関係しています。人間のように顔の前面に目がある動物は、立体視や奥行き感知には優れている一方、視野は狭くなります。対して犬は目がやや横についており、その分、周囲を広く見渡せる構造となっています。

ただしその代わりに、正面のものを立体的に捉える「両眼視野」は人間より狭く、奥行きの判断には嗅覚や聴覚など、他の感覚を補助的に使っていると考えられています。

犬は動くものに強い:優れた動体視力

犬の目には「桿体細胞」が多く存在し、これが彼らの動体視力を高めています。桿体細胞は光の感度が高く、暗い場所でも物を捉える能力を持っており、特に動いているものに対して素早く反応するのに優れています。

たとえば、遠くにいる鳥やボールがわずかに動いただけで、犬はすぐにそれに気づくことができます。この動体視力は、犬の祖先であるオオカミが狩りをする際に必要だった能力であり、現代の犬にもその名残が受け継がれているのです。

この特性は、ドッグスポーツや訓練、さらには警察犬や盲導犬などの職業犬にも活かされています。静止した物体よりも、動いている対象に対して素早く視覚的に反応できる点は、人間よりも優れている場合があります。

暗闇でもよく見える理由:夜間視力の秘密

犬の視力で特筆すべきもうひとつの点が、夜間視力です。先ほど触れたように、犬の網膜には桿体細胞が多いため、少ない光でも物体を捉える能力に長けています。さらに、犬の目には「タペタム・ルシドゥム(tapetum lucidum)」と呼ばれる構造があり、これが光を再反射させることで、暗所での視認性を高めています。

このタペタム・ルシドゥムは、夜間に車のライトなどで犬の目が光る原因でもあります。人間にはこの反射板が存在しないため、犬ほど暗い場所で物を見ることができません。犬にとって夜間の視覚は非常に発達しており、夕暮れや明け方でも行動しやすい理由のひとつとなっています。

犬種によって異なる視覚の個性

犬の視力には、個体差や犬種ごとの差も存在します。たとえば、視覚を使って狩猟するサイトハウンド系(グレーハウンド、ボルゾイ、ウィペットなど)は、動くものを遠くから捉える力が特に優れています。一方で、嗅覚を主に使う犬種(ビーグル、ブラッドハウンドなど)は、視力の鋭さよりも嗅覚が突出している傾向にあります。

また、短頭種(フレンチブルドッグやパグなど)は、眼球が前方に出ているため正面の立体視には優れますが、視野の広さが制限されるという一面もあります。逆に、目が頭部の両側に位置する犬種では広範囲を一度に見渡せますが、正面の奥行き判断がやや苦手とされています。

犬の「視力」だけでなく、複合的な感覚で世界を認識している

ここまで視力に注目してきましたが、犬は視覚だけに頼って世界を理解しているわけではありません。嗅覚や聴覚といった他の感覚が非常に発達しており、それらと視覚を組み合わせて、周囲の状況を総合的に把握しているのです。

たとえば、犬は飼い主の匂いや足音をいち早く感知し、その姿が視界に入る前から接近を察知しています。視力が劣っているからといって、生活に不自由を感じているわけではないのです。むしろ、私たち人間とは異なる形で世界を豊かに感じ取っているといえるでしょう。

まとめ:犬の視力を理解することで、よりよい接し方ができる

犬の視力は人間と比べると低い部分もありますが、動体視力や暗視能力、広い視野など、独自の進化を遂げた機能が備わっています。色の識別に制限はあるものの、見えている世界は決して無色ではなく、彼らなりの「見え方」が存在します。

この視覚の特徴を理解することで、犬にとって見やすいおもちゃの色を選んだり、視界に入りやすい位置でコミュニケーションを取ったりするなど、より良い接し方が可能になります。犬の目に映る世界を想像することは、飼い主としての理解を深め、信頼関係を築くための第一歩となるのです。

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