日常的によだれを垂らす犬の特徴とは
犬によだれがあるのは、決して異常ではありません。むしろ、犬にとって唾液は食べ物の消化を助け、口腔内を潤す大切な体液のひとつです。犬種によっては特によだれが多い傾向があり、セントバーナードやバセットハウンド、ブルドッグのように口の構造が大きく、唇がたるんでいる犬は、日常的に唾液が垂れやすいとされています。そうした犬たちは、興奮したときや食事を前にしたときによだれがポタポタと垂れることがありますが、それ自体が異常というわけではありません。
また、夏場など暑い日にはパンティング(口を開けてハァハァと呼吸する行動)により唾液の分泌が一時的に増えることもあります。運動後や緊張状態でも同様です。こうした一過性のよだれは、生理的な反応として見なされ、特に心配する必要はありません。
よだれの量が急に増えたと感じたら
いつもと同じようなシチュエーションにもかかわらず、よだれの量が突然増えたように見えるときは注意が必要です。普段よだれをほとんど垂らさない犬が、ある日を境によだれをポタポタと垂らすようになった場合、何らかの身体の異常が隠れている可能性があります。
飼い主が気づきやすい変化としては、食事や水を口にしていないにもかかわらず、口元から絶え間なくよだれが垂れている、床に水たまりができるほど大量の唾液が落ちている、口の周囲が常に湿っている、こうした異常は単なる体質の違いでは済まされません。これまでとは異なる量やタイミングの変化は、早めの対処が求められます。
緊急性の高いよだれのパターンと考えられる原因
犬のよだれが急激に増えたとき、それが病気のサインである可能性は少なくありません。特に、以下のような兆候が同時に見られる場合は緊急の対応が必要になります。
まず、よだれとともに吐き気を示すような仕草が見られる場合、異物の誤飲や中毒の疑いが考えられます。犬は誤って毒性のある植物や人間用の薬、チョコレートやキシリトールなどを口にすることがあります。そうした場合、体はそれを吐き出そうとし、唾液の分泌が急激に増えることがあります。
また、口腔内に痛みを感じている場合も、唾液が多く分泌されます。歯周病や歯の破折、口腔内の腫瘍などが原因となっているケースです。口の中を触られることを嫌がったり、片側だけで食べようとするような仕草がある場合、口腔トラブルを疑うべきです。
さらに、神経系の疾患や熱中症も多量のよだれを伴うことがあります。特に、暑い日にぐったりしていて、呼吸が荒く、舌が紫がかっているようであれば、体温調節がうまくできずに熱中症を起こしている可能性があります。
口腔内トラブルが原因の場合
犬のよだれの異常の原因として非常に多いのが、歯や口の中の問題です。歯周病は3歳以上の犬の多くが抱える問題であり、放置すると歯肉の炎症や出血だけでなく、強い口臭や唾液の異常な増加を招きます。
特に、高齢犬や小型犬種では歯石がつきやすく、それが歯周病の温床となります。犬が口の中の違和感を拭おうとすると、唾液が増え、よだれとして現れるのです。また、口の中にできた潰瘍や腫瘤も、同様の原因になります。
口腔内に異常がある場合、飼い主が口の中を確認しようとすると強く嫌がることが多いのも特徴です。目視でわかるような赤みや出血、腫れなどがあれば、速やかに動物病院を受診することが望まれます。
胃腸の不調や消化器疾患が関係する場合
胃や腸のトラブルも、犬のよだれと関係があります。たとえば、胃酸が逆流して食道に炎症が起きる逆流性食道炎では、唾液の量が増えることがあります。これは、胃酸の刺激から食道を守ろうとして体が唾液を多く出すためです。
また、膵炎や肝疾患、腎不全など内臓の異常がある場合にも、体調の変化に伴ってよだれの量が増えることがあります。こうしたケースでは、よだれの他にも元気がない、食欲が落ちている、体重が急激に減ったなど、全身症状として異変が現れることが多くなります。
明らかな異常が見られる場合には、自己判断で様子を見るのではなく、できる限り早めに血液検査などで内臓機能の確認を行うべきです。
精神的なストレスや緊張によるよだれ
犬は感情が表情や行動に出やすい動物ですが、よだれの量にもその影響が現れることがあります。たとえば、動物病院の待合室や雷が鳴っているとき、あるいは車に乗せられているときなど、犬が強い不安や緊張を感じているときには、よだれがポタポタと垂れるような状態になることがあります。
こうした場合のよだれは一時的で、原因となっているストレスから解放されれば自然とおさまることが多いです。しかし、慢性的な不安を感じている犬では、常によだれを垂らしていることもあるため、生活環境や飼い主との関係を見直すことが重要です。
よだれの色やにおいから分かる異常のサイン
通常の犬のよだれは、透明で粘度の低いものです。これが白く泡立っていたり、血が混じっていたり、悪臭がしたりする場合には、何かしらの異常が関係していると考えられます。とくに口臭が強い場合は、歯石の蓄積や歯肉炎、場合によっては腫瘍の存在が疑われます。
また、泡のようによだれが続く場合は、誤飲や異物の存在、消化器系のトラブルが関連していることもあります。明らかに粘度が高くネバネバしていたり、黄ばんだりしているような唾液も、病的な兆候と考えてよいでしょう。
異常なよだれに気づいたときの対処法
もし、犬がいつもと違う様子でよだれを垂らしていたら、まずはその様子をよく観察することが大切です。食欲、元気、便の状態、呼吸の様子、舌や口内の色など、他に異変がないかを冷静にチェックしましょう。
そのうえで、よだれの原因が一時的な興奮や暑さによるものと判断できれば様子を見ることもできますが、原因がはっきりしなかったり、異常が継続している場合には動物病院で診察を受けるようにしてください。自己判断で放置してしまうと、見えないところで病気が進行してしまうおそれがあります。
特に、急激に症状が出た場合や、ぐったりしている、痙攣している、嘔吐が続いているような場合は、迷わず早急な受診が必要です。
健康を守るためにできる日常の工夫
犬の健康を守るうえで、日々の観察は欠かせません。特によだれの変化は見逃しやすい部分ですが、食後や遊んだあとの様子、休息時の顔つきなどを意識的に見るようにしておくと、小さな異変に気づきやすくなります。
また、歯磨きやデンタルケアを定期的に行うことも、口腔内の健康を守るうえで非常に大切です。犬が歯磨きを嫌がる場合でも、歯磨きシートやおやつ型のデンタル製品を活用することで、ある程度のケアは可能です。
夏場には熱中症予防として、十分な水分補給と涼しい環境を整えることも大切です。犬にとって心身ともに安心できる環境づくりが、異常なよだれの予防にもつながります。