大型犬だけじゃない?警察犬に求められる資質とは
警察犬と聞くと、多くの人がシェパードのような大型犬を思い浮かべるのではないでしょうか。確かに、日本国内で正式な警察犬として広く活躍している犬種には、ジャーマン・シェパード・ドッグ、ラブラドール・レトリバー、ドーベルマンなどが名を連ねており、その多くが体格の良い大型犬です。これらの犬は服従性や作業意欲、警戒心の強さといった能力に優れ、犯人追跡や麻薬探知、災害救助などの任務で大きな成果を挙げてきました。
しかし、近年では少し異なる流れも生まれつつあります。警察犬に求められるのは単なる「大きさ」ではなく、「作業能力」「集中力」「指示への反応の良さ」「人との協調性」であり、これらの資質は必ずしも大型犬だけが持つものではないからです。
委託警察犬という仕組み
日本には「直轄警察犬」と「嘱託警察犬(委託警察犬)」という二つの仕組みがあります。前者は警察が直接管理し訓練する犬で、主に警視庁や道府県警察本部が所有しています。一方、嘱託警察犬は民間の訓練士や一般家庭に飼育されている犬が、試験に合格することで警察業務に協力する形です。これが「委託警察犬」と呼ばれる制度です。
委託警察犬制度の導入により、警察は訓練士やボランティアと連携しながら、広範なエリアで柔軟な対応ができるようになりました。各県警が必要に応じて嘱託契約を結び、行方不明者の捜索や犯罪現場でのにおいの追跡といった業務を委託するのです。警察犬は公務員ではありませんが、警察の一因として実際に現場に出動し、多くの成果を上げています。
小型犬も委託警察犬になれる可能性がある
委託警察犬の世界では、以前に比べると犬種の幅が広がってきています。これまでの主力であったシェパードやレトリバーに加えて、ボーダー・コリーやスタンダード・プードル、エアデール・テリアといった多様な犬種も嘱託試験に合格し、現場で活躍しています。実際に、優れた嗅覚や集中力を持つ中型犬や一部の小型犬が、嘱託警察犬として任務に就くケースも見られ始めました。
特に行方不明者の捜索といった業務では、スピードや筋力よりも「敏感な嗅覚」や「細かな指示に反応できる能力」が重視されるため、体の大きさが絶対条件ではありません。例えば、ミニチュア・シュナウザーやパピヨン、シェットランド・シープドッグといった中〜小型犬が、優れた探知能力と機動性で活躍する場面もあります。
委託警察犬として認定されるには?
小型犬を警察犬として活躍させたいと考える場合、まずは管轄の都道府県警察が実施する「嘱託警察犬審査会」に挑戦する必要があります。この審査では、臭気選別能力や服従訓練、障害物通過、追跡能力などが試されます。特定の犬種に限定されているわけではなく、試験に合格すればどの犬でも委託警察犬として契約される可能性があるのです。
とはいえ、試験は決して簡単なものではありません。犬自身の能力はもちろん、日常的な訓練の積み重ね、ハンドラーとの連携、そして精神的な安定も重要な要素です。民間の訓練所に通いながらスキルを磨き、審査会に向けた準備を整える家庭も増えています。
実際に活躍する小型犬や異色の犬種たち
小型犬が警察犬として注目される背景には、「においを追う」という点に特化した活躍の場の拡大があります。災害時の生存者捜索や認知症高齢者の行方不明事案では、細かな場所まで入り込める小型犬の機動力が役立ちます。実際に一部の県では、トイ・プードルやミニチュア・シュナウザーが嘱託警察犬として現場に出動した実績もあります。
また、海外ではビーグルが空港の探知犬として活躍している例がよく知られています。彼らの優れた嗅覚と穏やかな性格、適度なサイズ感が「荷物の間をすり抜けやすく」「威圧感を与えない」という点で重宝されているのです。このような事例は日本でも徐々に注目されるようになってきています。
委託警察犬のこれからと、小型犬の可能性
高齢化社会が進む中で、行方不明者の捜索や地域のパトロール活動の重要性はますます高まっています。警察犬の活躍の場は、都市部の事件現場だけでなく、地域密着型の捜索活動や予防的活動にも広がってきており、その中で委託警察犬の柔軟性が注目されているのです。
小型犬にしかできない役割がある――そうした認識が広がれば、今後はさらに多様な犬種が警察犬として活躍する時代がやってくるかもしれません。もちろん、すべての小型犬が警察犬に向いているわけではありませんが、愛犬との新たな可能性を模索したい人にとっては、委託警察犬という選択肢は魅力的な未来を拓く道となるでしょう。