寒い季節になると、犬がブルブルと震えている姿を見ることがあります。しかし、気温の低下だけが犬の震えの原因ではありません。むしろ、震えは犬からのSOSサインであることが多く、見逃してはいけない重要なメッセージを含んでいます。元気がない状態で震えていたり、止まらないほど震えていたり、小刻みに体を震わせているとき、そこには寒さ以外の理由が潜んでいる可能性があります。本記事では、犬の震えに隠されたさまざまな原因を探りながら、飼い主が取るべき対応や注意点について深く掘り下げていきます。
「寒いから震えている」は誤解?震えの基本を理解する
犬が震えると、多くの飼い主は「寒いのかな?」と真っ先に気温の影響を考えるでしょう。もちろん、被毛が少ない犬種や小型犬は体温が下がりやすく、寒さに敏感です。しかし、室内にいるにも関わらず震えが止まらなかったり、日中の温かい時間帯にも震えているようであれば、それは他の要因が関与していると考えるべきです。震えは筋肉の収縮によって起きますが、その背景には身体的あるいは精神的なストレス、痛み、内臓疾患、神経の異常など、さまざまな要素が関わっているのです。
緊張や不安が引き起こす震え:心が震えの原因になることも
犬は人間以上に環境の変化に敏感な動物です。雷や花火、知らない場所、知らない人や犬との接触といったストレスフルな状況に置かれると、恐怖や不安から体を小刻みに震わせることがあります。これは一過性のものであり、時間の経過や状況の変化とともに自然と治まることが多いですが、その場限りの震えとは限りません。
また、日常的にストレスを抱え続けている犬は、ちょっとした刺激でも震えるようになることがあります。頻繁に震えが見られ、そのたびに元気がなくなるような場合には、精神的な負荷が慢性化している可能性があります。家の中の騒音、飼い主の不在時間の長さ、多頭飼育による圧力など、原因は多岐にわたります。
痛みや内臓の異常:震えの裏にある身体の異常
犬が突然震えだし、同時に食欲が落ちたり、歩きたがらなくなったり、元気がない様子を見せたときには、内臓の異常や痛みが原因であることも疑う必要があります。たとえば、膵炎や胃腸炎のような腹部の炎症、関節炎や椎間板ヘルニアのような運動器の痛み、あるいは内臓の腫瘍などでも震えは生じます。
特に高齢の犬や、もともと関節疾患を抱えている犬が震えている場合、痛みによる反応であることが少なくありません。犬は痛みを我慢する傾向があるため、震えとして現れる頃には、すでに症状が進行していることもあります。いつもと違う場所に隠れたがる、声をかけても反応が鈍い、触ると嫌がるなどの行動が伴っていれば、早急な受診が必要です。
低血糖や中毒:緊急性のある震えの原因
小型犬や子犬によく見られるのが、低血糖による震えです。食事の間隔が空きすぎたり、急に活動量が増えたときなどに、体内の血糖値が急激に下がることで体が震えることがあります。震えに加えて、ふらつき、意識がもうろうとする、倒れこむなどの症状が出た場合は非常に危険です。ブドウ糖や甘いシロップをすぐに与え、速やかに動物病院を受診する必要があります。
また、犬が口にしてはいけないものを食べてしまったときにも震えが見られることがあります。代表的な中毒物質には、チョコレート、キシリトール、タマネギ類、アルコール、観葉植物の一部などがあります。中毒による震えは、痙攣や吐き気、下痢、呼吸困難などを伴うことが多く、緊急性が非常に高い症状です。
神経系の異常:震えと一緒に見られる危険信号
神経に何らかの障害が起きた場合にも、震えという症状が現れることがあります。代表的なのはてんかんです。発作の前後に体を小刻みに震わせることがあり、目の焦点が合わない、意識が一時的に途切れるなどの行動が見られる場合は、神経系のトラブルを疑いましょう。また、脳腫瘍や脊髄の異常なども同様に、神経の伝達異常によって震えを引き起こす可能性があります。
震えが左右非対称だったり、片側だけに集中しているような場合や、震えた後にバランスを崩すような動きが見られたときには、特に注意が必要です。こうした震えは慢性的に続く場合があり、適切な検査と治療が不可欠です。
震えが止まらないときの判断基準
震えが短時間で止まり、元気や食欲もいつも通りであれば、大きな問題がないこともあります。ただし、震えが断続的に続く、1日中止まらない、あるいは震えと同時に元気がなくなるといった場合には、早急に動物病院を受診すべきです。特に、いつもは震えることがない犬が突然震え始めたときには、重大な身体的トラブルの兆候である可能性があります。
また、震え以外に何かしらの異変が見られるとき──歩き方の変化、嘔吐や下痢、呼吸が荒くなる、吠えなくなる、視線が定まらない──といった症状を併発していれば、そのサインを無視してはいけません。
飼い主にできること:環境・習慣・健康の見直し
犬の震えに気づいたとき、まずは冷静に観察することが重要です。どのタイミングで震え始めたか、周囲の環境や音、食事の時間、散歩の内容、排せつの様子などを確認し、何らかの共通点がないかを見つけましょう。こうした情報は、獣医師に伝える際にも非常に役立ちます。
また、普段から室温を快適に保ち、ストレスを与えないような環境を整えることも予防の一環となります。犬が安心して過ごせるスペースを確保し、落ち着ける場所を用意してあげるだけでも、震えの回数が減ることがあります。とくに音に敏感な犬種では、防音効果のあるマットやカーテンなども有効です。
動物病院で行われる検査と処置の一例
震えが続く場合、動物病院ではさまざまな検査が行われます。血液検査によって内臓の状態やホルモンバランスの確認、X線や超音波による内臓の異常の確認、神経反射テストやMRIによる神経系の確認などが行われることもあります。
原因が特定できれば、それに応じた治療が始まります。痛みが原因であれば鎮痛薬の投与、内臓疾患であればその治療、神経異常であれば抗てんかん薬などが処方されます。精神的ストレスが主因であれば、環境改善や必要に応じて行動療法がすすめられることもあるでしょう。
まとめ:震えは犬の「沈黙のサイン」
犬が震えているとき、その行動の奥には多くの情報が詰まっています。「震えている=寒い」と単純に判断せず、犬の全身の様子や行動の変化、環境やタイミングを冷静に見つめることが、健康を守る第一歩です。震えが止まらない、元気がない、いつもと違う震え方をしている場合には、迷わず動物病院を訪れるようにしましょう。
飼い主の観察力と判断力が、愛犬の命を守るカギになるのです。