犬が「おいで」と言われても来ない行動は珍しくない
「おいで」と声をかけても犬が来ない、あるいは反対方向に逃げてしまう行動は、多くの飼い主が一度は経験するものです。これは犬がわがままだからでも、しつけが失敗しているからでもありません。犬にとって「おいで」という言葉が、必ずしもポジティブな意味として理解されていないケースが非常に多いためです。犬は言葉そのものではなく、これまでの経験や感情の積み重ねによって行動を選択しています。
犬に「おいで」と言っても来ない理由は?
「おいで」が嫌な結果につながっている
犬が呼びかけに応じなくなる大きな理由のひとつが、「おいで」の後に起こる出来事です。爪切りやブラッシング、散歩の終了、叱責など、犬にとって好ましくない体験が続いていると、「おいで=嫌なことが起きる合図」と学習してしまいます。この場合、犬は命令に逆らっているのではなく、自分を守るために距離を取っている状態だと考えられます。
飼い主の声や態度がプレッシャーになっている
飼い主自身は優しく呼んでいるつもりでも、実際には声のトーンが強かったり、焦りや苛立ちが混じっていたりすることがあります。犬は人の表情や声の変化に非常に敏感です。そのため、「おいで」と言われた瞬間に緊張感を察知し、叱られるのではないかと警戒して動かなくなることがあります。特に臆病な性格の犬や、過去に叱責経験が多い犬ほど、この傾向は顕著です。
犬にとって魅力的な環境が優先されている
屋外や広い場所では、匂い、音、他の犬、人など、犬にとって興味を引く刺激が数多く存在します。その中で飼い主の呼び声が十分な価値を持たなければ、犬は現在の行動を優先します。これは支配関係の問題ではなく、「今していることの方が楽しい」という単純な選択です。特に若い犬や活動量の多い犬では自然な反応といえます。
「おいで」と「捕まえられる」が結びついている
呼び戻された直後に首輪をつかまれたり、無理に抱き上げられたりする経験が続くと、「おいで=自由を奪われる」と学習してしまいます。その結果、呼ばれると距離を取る、追いかけっこを始めるといった行動につながります。犬にとっては遊びの延長のように見えても、実際には学習の結果として定着しているケースが少なくありません。
「おいで」を成功させるための考え方と対処法
呼び戻しを教えるうえで重要なのは、「必ず来させる」ことではなく、「来たくなる状況を作る」ことです。犬は強制される行動よりも、自発的に選んだ行動を繰り返しやすい動物です。そのため、まずは「おいで」と言われたときに、良いことが起きるという印象を積み重ねる必要があります。
室内で信頼を積み直すところから始める
対処の第一歩は、刺激の少ない室内環境での練習です。犬がリラックスしている状態で、穏やかな声で名前を呼び、「おいで」と伝えます。来たら必ず褒め、犬が嬉しいと感じるごほうびやスキンシップを与えます。このとき、来なかったからといって叱ったり、無理に近づいたりしないことが重要です。成功体験だけを積み重ねることで、「おいで=安心できる合図」と再学習させていきます。
「おいで」を日常のポジティブな場面で使う
呼び戻しを特別な指示にしないことも効果的です。食事前や遊びの途中、散歩中に楽しい出来事が続く場面で「おいで」を使い、来たあとも行動が終わらないようにします。来たらすぐ終了、来たら拘束、という流れを避けることで、犬は安心して応じやすくなります。
逃げる犬を追いかけない理由
犬が逃げたときに追いかけると、犬にとっては「追いかけっこが始まった」と解釈されやすくなります。その結果、逃げる行動が強化されることがあります。犬が距離を取った場合は、しゃがんだり、背を向けたりして、犬が自分から近づきやすい姿勢を作る方が効果的です。犬は追われるよりも、自分で近づく選択をしたときの方が安心感を得やすい傾向があります。
外での呼び戻しは段階的に難易度を上げる
屋外での「おいで」は、室内よりもはるかに難易度が高くなります。まずは人通りや刺激の少ない場所から始め、短い距離で成功体験を重ねます。成功率が安定してから、少しずつ環境の刺激を増やしていくことが大切です。一度失敗が続くと学習が後退しやすいため、確実に成功できる条件を整える視点が欠かせません。
それでも来ない場合に考えたいこと
十分に時間をかけても呼び戻しが難しい場合、犬の性格や不安傾向、過去の経験が影響している可能性があります。怖がりな犬や警戒心の強い犬では、一般的な方法だけでは改善しにくいこともあります。その場合は、トレーニングの進め方自体を見直し、専門家のアドバイスを受けることも選択肢になります。
まとめ:「おいで」は信頼関係を映す行動
犬が「おいで」に応じるかどうかは、服従心ではなく信頼関係の表れです。犬が自分の意思で近づいてくるようになるまでには時間がかかることもありますが、その過程こそが人と犬の関係を安定させていきます。焦らず、叱らず、成功体験を積み重ねることで、「おいで」は犬にとって安心できる合図へと変わっていきます。



