犬を飼い始めると、まず覚えさせたいコマンドの一つが「マテ」です。ご飯の前に「マテ」をすることが多くみられますが、実は日常生活のあらゆる場面で役立ち、犬の自制心や信頼関係を育む大切なトレーニングでもあります。
この記事ではマテの重要性、教える方法、そして注意点を解説します。
「マテ」は犬のしつけの基本
「マテ」とは、飼い主の合図でその場にとどまり、解除の言葉があるまで動かずに待つことを指します。一見単純に思えますが、犬にとっては非常に高度な行動です。犬はもともと瞬間的に動く習性を持っており、本能に逆らって「動かないでいる」というのは、飼い主への強い信頼と集中力の証といえます。
多くの飼い主が「マテ」を教える理由は、単なる芸ではなく、安全と信頼を守るための“命令”として日常で大きな意味を持つからです。特に外出中や食事時、来客対応などで犬が落ち着いて行動できるとトラブル防止にもつながります。マテは生活の秩序を作る基礎的なスキルであり、愛犬と穏やかに暮らすための第一歩です。
犬に「マテ」ができると得られるメリット
1.危険から守れる
「マテ」を覚える最大のメリットは、犬を危険から守ることです。散歩中に車道へ飛び出そうとしたときや、落ちている食べ物を拾い食いしようとしたときなど、飼い主の「マテ」で犬の動きを止められれば、命に関わる事故を防げます。特に好奇心旺盛な子犬期や、刺激に敏感な成犬期には、こうした予防が大きな安心材料になります。
また、玄関のドアが開いた瞬間や、宅配便の受け取り時など、犬が思わず飛び出してしまうような場面も少なくありません。そうしたときに「マテ」が身についていると、飼い主が落ち着いて対応でき、家庭内の安全性も高まります。
2.飼い主との信頼関係が深まる
犬にとって「マテ」は、飼い主の指示を聞き、従うための“心の練習”でもあります。飼い主の声やジェスチャーに意識を向け、次の行動を待つことは、犬にとって「この人の言葉を聞けば大丈夫」という安心感につながります。つまり、マテを通して犬は飼い主に信頼を寄せるようになるのです。
さらに、飼い主の側も「私の言葉で愛犬が落ち着いてくれた」と感じられ、互いの絆がより強まります。しつけとは単に命令を覚えさせることではなく、コミュニケーションを築く行為でもあります。「マテ」ができるようになる過程には、褒める・見守る・待つという飼い主の姿勢が求められるため、それ自体が信頼を深める時間になります。
3.社会性が育ち、トラブルを防げる
「マテ」を覚えた犬は、他の犬や人との関わりでも落ち着きを見せます。ドッグランや公園での接触、動物病院での診察、トリミングサロンでの待機など、日常には「静かに待つ」場面が多くあります。マテができると、周囲に不安や迷惑をかけずに過ごせるようになり、社会的なマナーを身に付けた犬として信頼されます。
また、多頭飼いの家庭では、一頭ずつ順番におやつや食事を与えるときにも「マテ」が役立ちます。犬同士のトラブルを防ぐだけでなく、飼い主が落ち着いて指示を出せる環境が整い、全体の調和が保たれるのです。
4.ストレス耐性が高まり、心が安定する
「マテ」は単なる動作ではなく、衝動を抑えて自制する練習です。犬にとって「動きたいのに我慢する」というのは小さな挑戦であり、これを繰り返すうちに心の安定や集中力が養われます。
待つことが習慣になると、刺激に過剰反応しにくくなり、吠え癖や落ち着きのなさが軽減することもあります。飼い主の指示があれば「今は動かない」と理解できる犬は、精神的にも安定しやすい傾向にあります。
マテを教える際の注意点
1.焦らず段階を踏む
マテのしつけは、一度で身につくものではありません。最初は数秒でも動かずにいられたら十分です。最初から長時間待たせようとすると、犬が混乱してしまい、マテが嫌いになってしまうこともあります。
大切なのは「待つ=良いことが起こる」と感じさせることです。成功したらすぐに褒め、おやつを与える。これを繰り返して、少しずつ待つ時間を延ばしていきます。成功体験を積ませながら信頼を深めることが、上達の近道です。
2.「おあずけ」と混同しない
食事の前に「マテ」をさせる飼い主は多いですが、それを単なる「おあずけ」と勘違いすると逆効果になることがあります。
おあずけは「我慢していると後で食べられる」という条件づけであり、マテとは目的が異なります。マテは「どんな場面でも飼い主の合図を待つ」という行動を意味するため、食事の場面だけに限定せず、散歩中や遊びの最中などでも練習することが重要です。どんな状況でも落ち着ける犬を目指すことが、本当のマテのしつけです。
3.叱らず、褒めて伸ばす
犬がマテに失敗して動いてしまっても、叱るのは逆効果です。「マテ=怒られる合図」と認識してしまうと、犬はその言葉に対して不安を抱くようになります。
マテは我慢と集中を要する行動なので、失敗よりも「できた瞬間」を重視して褒めることが大切です。褒められることで犬は「マテをすると良いことがある」と学び、自ら進んで待つようになります。叱るよりも褒めることで、自発的に行動をコントロールできる犬に育ちます。
4.環境を整える
しつけの初期段階では、静かで刺激の少ない場所を選びましょう。テレビや他のペット、外の音が気になると、犬の集中力が途切れやすくなります。最初は室内の静かな空間で、徐々に屋外や散歩中など実践的な環境へと移行していくと、より確実に定着します。
また、飼い主の声のトーンや動作も統一することがポイントです。毎回違う言葉や手の動きを使うと、犬は混乱してしまいます。いつも同じ言葉と手の合図で指示を出すようにしましょう。
犬にマテを覚えさせる方法
1.「おすわり」から始める
まずは犬を落ち着かせ、「おすわり」をさせます。その状態で「マテ」と声をかけ、犬が動かずにいられたらすぐに褒めてご褒美を与えます。最初は一秒でも構いません。短い成功を積み重ねることが自信につながります。
2.少しずつ時間と距離を伸ばす
一秒待てたら二秒、次は三秒と、徐々に待つ時間を延ばしていきます。次に、飼い主が一歩後ろに下がっても犬が動かないかを確認します。動いてしまったら焦らず最初の距離に戻り、成功体験を繰り返します。犬は飼い主の動きに敏感なので、少しずつ環境を変えて練習すると効果的です。
3.解除の合図を忘れない
マテのトレーニングで重要なのは、「解除の合図」を必ず与えることです。「よし」「OK」など、行動を再開していいタイミングを明確に伝えます。解除を忘れると、犬はどのタイミングで動いていいのかわからず、不安や混乱を感じるようになります。
マテと解除はセットで覚えさせることが、安定した行動のコントロールにつながります。
4.日常生活で応用する
散歩中の信号待ちや、玄関での来客対応、車に乗せるときなど、日常生活の中で「マテ」を活用すると、犬の理解が深まります。生活の中で実際に使えるコマンドとして定着させることが、しつけのゴールです。
また、マテができる犬は、トレーニングの次の段階「おいで」「ハウス」などの指示もスムーズに覚えやすくなります。マテはまさに、他のしつけの基礎を作るカギといえるでしょう。
まとめ
犬に「マテ」を教えることは、単なるコマンドを超えて、生活の安全と信頼関係を守るための重要な習慣です。マテができる犬は、事故やトラブルを防ぎ、落ち着いた行動が取れるようになります。飼い主との絆も深まり、家庭全体が穏やかになります。
一方で、マテのしつけには焦りは禁物です。叱らず、成功を褒めながら、段階を踏んで練習していくことが成功への近道です。日々の生活の中で少しずつ「待つ」時間を作り、飼い主と愛犬が心を通わせながら一歩ずつ成長していくことが、最も大切なポイントです。



