共働き世帯や単身者が増えている現代、日中に犬を一匹でお留守番させるのは珍しいことではありません。しかし、「帰宅すると家具が壊れている」「吠え声が近所迷惑になっていないか心配」「寂しさで震えていた」というように、留守番中の犬が見せる不安のサインに悩む飼い主は少なくありません。
この記事では、犬が留守番で感じる不安の正体と、できるだけストレスを与えず安心して過ごしてもらうための方法について、最新の知見を踏まえながら詳しく解説していきます。犬の心の安定を守りながら、飼い主自身も安心して外出できるようになることを目指しましょう。
犬にとって「留守番」はどんな時間なのか
人間にとっての留守番は、仕事や用事のための一時的な外出ですが、犬にとっては「群れの仲間がいなくなった」という重大な出来事です。犬は本来、集団生活をする動物であり、仲間との接触や同調行動を通じて安心感を得る性質があります。そのため、1頭だけで取り残されるという状況は、不安や孤独を引き起こしやすいのです。
特に、飼い主との結びつきが強い犬種や個体ほど、その傾向は強く見られます。これは「分離不安症」と呼ばれ、重症化すると体調不良や破壊行動などが顕著に現れることもあります。
留守番で見られる「不安のサイン」とは
犬の不安は、さまざまな行動となって現れます。最も多いのは「吠える」「遠吠えをする」といった鳴き声による表現です。これは、遠くにいる飼い主を呼び寄せようとする本能的な行動といわれています。また、家具やドアを破壊したり、室内での排泄が増えたりする場合もあります。
中には、じっと固まって動かなくなる、食欲をなくす、唸る、嘔吐や下痢をするなど、身体的な不調にまでつながるケースもあります。これらはすべて「不安」が引き金になっていると考えられ、放置することで犬の心身に悪影響が及びます。
留守番不安の原因とは?犬の心理を理解する
犬が留守番を苦手とする理由には、いくつかの心理的背景があります。まずひとつは、幼少期に十分な「独立経験」を持てなかったことです。常に飼い主と一緒に過ごしていた子犬期を経て、そのまま成犬になった犬は、離れること自体に慣れておらず、突然の不在が強いストレスになります。
また、飼い主が出かける際に過剰な「行ってくるね」「寂しいね」などの声掛けをしていると、犬は「これから何か悪いことが起こる」と学習してしまいます。これにより、出かけるたびに警戒モードになり、不安が強化されてしまうのです。
さらに、留守番中の空間に刺激が少なく、暇な時間をどう過ごしていいかわからない犬は、不安に加えて退屈やフラストレーションも感じやすくなります。
愛犬が安心して留守番できるようにするための工夫
それでは、どうすれば犬が留守番を不安なく乗り越えられるようになるのでしょうか。ポイントは、犬の「安心感」を少しずつ育てていくことです。以下に、日々の習慣や環境づくりを通じてできることを具体的に解説します。
留守番の練習は「短時間」から始める
いきなり長時間のお留守番をさせるのではなく、まずは数分から10分程度の外出を繰り返して、留守番という行為に慣れさせていきましょう。戻ってきたときは過剰に構わず、「特別な出来事ではない」と犬に思わせるのがコツです。
飼い主の外出を“イベント”にしない
出かける前に犬にしつこく声をかけたり、帰宅時に大げさに喜んだりするのは逆効果です。出入りのタイミングでは、あえて無言で淡々と行動することで、犬に「いつも通りで大丈夫」と伝えることができます。
「安心できる環境」を整える
クレートやお気に入りのベッドを使って、犬にとって安心できるスペースをつくってあげましょう。外の音が入りにくい部屋を選ぶのもおすすめです。また、飼い主の匂いがついた服やタオルなどをそばに置いておくと、精神的な安定につながります。
留守番中の「刺激」を用意してあげる
知育トイやコングなどにフードを詰めておくと、犬はしばらくの間それに夢中になります。こうした「考えて取り組む遊び」は、脳を適度に疲れさせ、不安や退屈を感じる時間を減らしてくれます。音楽やテレビの音などを小さく流しておくのも、静寂への不安を和らげる効果があります。
分離不安が強い犬には「専門的な対策」も必要に
軽度の不安であれば、上記のような環境調整で対応できますが、それでも強い不安症状が見られる場合は「分離不安症」を疑うべきです。これは医療の対象であり、行動療法や投薬治療が必要になることもあります。
獣医師やドッグトレーナーに相談し、適切な診断と対処を受けましょう。行動療法では「滞在時間の徐々な延長」「独立した行動の強化」などが行われ、専門的な知識が大きな助けとなります。
長時間の留守番が避けられないときは?
どうしても長時間家を空けなければならない日は、以下のような手段を検討してみてください。
・ペットシッターを頼んで途中で様子を見に来てもらう
・犬用見守りカメラで様子を確認し、不安時に声をかける
・ドッグデイケア(犬の保育園)に預ける
・親族や信頼できる知人に預かってもらう
毎日ではなくても、こうしたケアを取り入れることで、犬が「完全な孤独」を感じる時間を減らすことができます。
飼い主自身が「罪悪感を持たないこと」も大切
犬のことを思うあまり、飼い主が過剰に罪悪感を持ってしまうケースもあります。しかし、犬は飼い主の感情を敏感に察知する動物です。「行ってきます、ごめんね」という気持ちが強いほど、犬にとっても不安のもとになります。
出かける際は、「また後でね、行ってくるよ」と明るく振る舞いましょう。犬に「自信を持って待っていていいんだ」と感じさせることこそ、最も重要な安心材料になります。
まとめ:犬にとっての留守番は「慣れ」と「安心感」がカギ
犬の留守番不安を和らげるには、一朝一夕ではなく、日々の積み重ねが不可欠です。留守番の練習を積み重ねること、環境を整えること、そして何より飼い主が冷静に対応すること。これらすべてが、犬の心に「大丈夫」という感覚を育てていきます。
犬の心に寄り添いながら、無理のない形で留守番に慣れさせていくことが、双方のストレスを減らし、よりよい共生につながります。今からでも遅くはありません。小さな工夫を一歩ずつ積み重ねて、愛犬に安心して留守番してもらえる環境を目指しましょう。