猫は一日の大半を眠って過ごす動物
猫を飼っていると、「この子、今日もずっと寝ている…」と感じることがあるかもしれません。しかし、これは猫にとってごく自然な行動です。
猫は元来、狩猟動物としての習性を持ち、短時間で全力を出す代わりに、長い休息をとるように進化してきました。野生の猫科動物も一日の多くを眠って過ごし、エネルギーを効率的に温存する生き方をしています。そのため、家庭で暮らす猫もその本能を受け継いでおり、日中に長時間眠るのは「異常」ではなく「正常」と言えるのです。
猫の睡眠は人間のようにまとまって夜に取るわけではありません。浅い眠り(レム睡眠)と深い眠り(ノンレム睡眠)を何度も繰り返し、1回あたり10〜30分程度の短いサイクルで眠ります。そのため、飼い主の目には「一日中寝ているように見える」ことが多いのです。
子猫と成猫では睡眠時間が違う
子猫は「成長ホルモン」を分泌するために長く眠る
生後間もない子猫は、ほとんどの時間を寝て過ごします。生後2〜3週間の子猫は1日のうち20時間以上を眠りに費やし、起きている時間の方が少ないほどです。これは成長に必要なホルモンが睡眠中に多く分泌されるためであり、十分に眠ることが健康的な発達につながります。体の成長だけでなく、脳の神経回路が形成される時期でもあるため、子猫の「寝すぎ」はむしろ良い兆候なのです。
この時期の猫は刺激に敏感で、外界の情報を夢の中で整理して記憶するともいわれています。遊んで疲れて寝る、また起きて少し食べて寝る。このサイクルを繰り返すことで、身体も心も育っていきます。
成猫は「狩りの本能」を残したまま眠る
成猫になると、平均的な睡眠時間は12〜16時間ほどに落ち着きます。ただし個体差があり、安心できる環境にいる猫ほど長く眠る傾向があります。これは外敵がいない室内で暮らす猫にとって、警戒の必要がなくなったことの表れです。つまり「よく寝る猫=リラックスできている猫」とも言えます。
一方、外で暮らす猫や多頭飼育で緊張が続く猫は、周囲への警戒心から浅い眠りが多く、熟睡できる時間が短くなる傾向があります。
高齢猫は眠りが浅くなることもある
年をとるにつれて猫の睡眠は再び変化します。
高齢猫は成猫期よりも長く眠るようになりますが、実際には「睡眠時間が増えた」というより「目を閉じて休んでいる時間が増えた」という方が正確です。老化によって活動量が減り、関節痛や代謝の低下から体を動かす機会が少なくなるため、自然と眠る時間が増えます。ただし、熟睡しているわけではなく、物音にすぐ反応したり、夜間に何度も起きて徘徊するようなケースも見られます。
このような変化は老化による自然な現象ですが、睡眠パターンの乱れが極端な場合は、甲状腺機能亢進症や認知機能の低下(猫の認知症)などの可能性もあるため注意が必要です。
猫が長時間寝る理由
① エネルギーを温存するため
猫は短距離のハンターです。野生の猫科動物のように、狩りでは一瞬の爆発的な運動を要します。そのため、体力を温存するために「じっと休む時間」が長いのです。
家庭猫もその遺伝的本能を引き継いでおり、1日の大部分を静かに過ごします。たとえ狩りをする必要がなくても、遊びや探索行動のためのエネルギーを蓄えるという意味で、この習性は変わりません。
② 安心できる環境だからこそ眠れる
安心できる家、信頼できる飼い主、快適な気温。この3つが揃っている猫ほどよく眠ります。
猫は警戒心の強い動物ですが、危険がないとわかると体の力を抜き、ぐっすり眠ります。そのため「寝すぎて心配」と感じる場合でも、元気・食欲・トイレの調子に問題がなければ、むしろ良好なコンディションの証といえます。
③ 季節や気温の影響
気温が低い季節は体温を保つため、猫は動かずに丸まって過ごすことが多くなります。冬に「寝てばかりいる」と感じるのは自然なことです。
反対に、夏は日中の暑さを避けて寝ることが増えます。猫はもともと薄明薄暮性(明け方と夕暮れに活動する習性)を持つため、昼間に眠り、朝や夕方に動くサイクルが理にかなっているのです。
「寝すぎ」が心配なときに確認すべきサイン
猫の長時間の睡眠が「正常」か「異常」かを見極めるには、眠り以外の行動にも注目する必要があります。
たとえば、食欲が落ちている、呼吸が浅く早い、ぐったりしている、反応が鈍い、排泄が減っているなどの症状が同時に見られる場合は、体調不良が隠れている可能性があります。感染症、腎臓病、糖尿病、貧血、甲状腺疾患、心臓疾患など多くの病気で「元気がない=寝てばかりいる」ように見えることがあります。
特に、いつもと違う場所でずっと寝ている、呼んでも動かない、撫でても反応が鈍いなどの変化が見られたら、早めに動物病院を受診しましょう。猫は不調を隠す傾向が強く、症状が出る頃にはすでに病気が進行していることも少なくありません。
睡眠と病気の関係:見逃しやすいポイント
急に寝る時間が増えたとき
急激に睡眠時間が増えた場合、体のどこかに異常がある可能性があります。たとえば感染症による発熱、貧血、脱水、または内臓疾患による倦怠感などが挙げられます。
特に高齢猫の場合、腎臓病や甲状腺の異常が多く、これらは初期症状が「なんとなくよく寝る」「動かない」といった曖昧なサインから始まることがあります。
寝方や寝る場所が変わったとき
猫は体調が悪いと、暗くて静かな場所にこもる傾向があります。普段は飼い主のそばで眠っていたのに、急に押し入れや家具の下などに隠れるようになった場合は注意が必要です。
また、体を伸ばして寝られなくなったり、丸まって小刻みに震えるように眠る場合は、痛みや寒さ、体温調節の異常が関係している可能性があります。
健康な猫の睡眠リズムを守るために
猫が自然なリズムで眠れる環境を整えることは、健康維持にもつながります。
静かで落ち着ける寝床を複数用意し、季節ごとに快適な温度と湿度を保つようにしましょう。特に冬場は暖房器具の近くにベッドを置きすぎると乾燥や火傷の原因になるため、程よい距離を取ることが大切です。
昼夜逆転してしまう猫には、日中に軽く遊んで体を動かす時間をつくると良いリズムが戻りやすくなります。眠りは「健康のバロメーター」。普段の眠り方を観察しておくことで、病気の早期発見にもつながります。
まとめ
猫が一日中寝ているように見えても、それは多くの場合、健康で安心している証です。子猫は成長のため、成猫は本能的なエネルギー管理のため、高齢猫は加齢による代謝の変化のために、睡眠時間が長くなります。
ただし、いつもと違う眠り方や行動の変化が見られた場合は、病気のサインの可能性もあります。
「猫がずっと寝てる」「猫の寝すぎは大丈夫?」と感じたら、まずは普段の生活リズムを見直し、異常がないかを冷静に観察することが大切です。安心して眠れる環境と、飼い主の優しいまなざしが、猫の健やかな毎日を支えていくのです。