猫の声の高さには意味がある
猫の鳴き声は、その高さやトーンによって感情を表現しています。甘えるときの「にゃー」や「みゃー」は比較的高く、リラックスや安心を示すことが多い一方で、「うー」「んー」「ぐるる」など低い声には、警戒・不安・威嚇・体調不良など、注意すべきサインが含まれます。
猫は言葉を話せない分、声色と表情、しっぽの動きなどを組み合わせて感情を伝えます。そのため、鳴き声が低く変わったときは「なぜ?」と思うよりも、「どんな気持ちでそう鳴いているのか」を読み取ることが大切です。
猫が低い声で鳴く主な理由
不安や緊張を感じているとき
引っ越しや来客、家具の配置換え、他の動物の存在など、環境の変化に敏感な猫は、不安を覚えると低い声で鳴くことがあります。これは「ここが安全なのか確認している」または「怖いけれど相手を威嚇したい」といった感情の表れです。
特に、背中を少し丸めて体を低くしながら「うー」と唸るような声を出している場合は、明確な警戒サインです。無理に触れず、落ち着ける場所に戻してあげるのが一番の対応になります。
威嚇や防御反応のとき
低い鳴き声は、他の猫や人に対して「近づくな」という警告の意味を持つこともあります。これは本能的な自己防衛反応で、相手との距離を保つためのサインです。
たとえば、知らない人や動物が近くにいると「ぐるる…」と低く喉を鳴らすようにして警戒します。このときは、目をそらさずにじっと見つめる行動を併せることが多く、非常に緊張した状態です。
痛みや体調不良を訴えている場合
鳴き方がこれまでと違うときは、身体の不調が隠れていることもあります。特に高齢猫では、関節痛や内臓疾患によって鳴き声が低く、力なく変化することがあります。
「うなっているわけではないのに、いつもより声がこもっている」「鳴く回数が増えた」という場合は、痛みや不快感を訴えている可能性があります。鳴き声だけで判断するのは難しいため、食欲やトイレの変化など、他の行動もあわせて確認することが大切です。
鳴き方の違いでわかる猫の気持ち
「うー」「ぐるる」と低く唸るような声
これは最も警戒や威嚇のサインとして知られています。多くの場合、猫は体を固くして耳を伏せ、目を細めながらこの声を発します。相手に「近づくな」「怖い」というメッセージを伝えています。
無理に近づくと引っかいたり噛んだりする危険もあるため、距離を取り、視線を外すことが基本です。時間が経てば落ち着くことが多く、無理に仲裁する必要はありません。
「んー」「むー」と小さく低い声
この鳴き方は、甘えたいけれど少し不安を感じているときや、飼い主の注意を引きたいときに見られます。
たとえば夜中に静かに「んー」と鳴きながら寄ってくる場合、寂しさや軽い不安から「そばにいて」と訴えていることもあります。このようなときは、軽く声をかけたり撫でてあげることで安心させることができます。
「ぐるぐる」と喉を鳴らす音
喉を鳴らす音は「ゴロゴロ」とも呼ばれますが、音が低く濁っているときはリラックスではなく、苦痛や緊張のサインであることもあります。とくに体調不良時には「苦しいけれど安心したい」という複雑な感情から喉を鳴らすことがあります。
いつもと違う低い音で喉を鳴らしている場合は、寝方や呼吸の様子も観察してみましょう。
猫が低い声で鳴くときの飼い主の対応
まずは猫の気持ちを尊重する
低い声で鳴いている猫に対して、無理に近づいたり抱き上げるのは逆効果です。猫は「理解されていない」と感じて、さらに警戒を強めます。
まずは静かに距離をとり、猫が自ら近づいてくるのを待ちましょう。その間、落ち着ける環境(隠れられる場所や音の少ない部屋)を整えることが重要です。
体調不良が疑われるときは早めに受診
鳴き方が変わっただけでなく、「食欲がない」「トイレが減った」「歩き方がぎこちない」といったサインがある場合は、動物病院で診察を受けましょう。
猫は体調の変化を隠す傾向があるため、鳴き声の変化が唯一のサインになることもあります。早期の受診が病気の悪化を防ぐポイントです。
家族で猫との接し方を統一する
家族の中で猫に接するトーンや動作がバラバラだと、猫は混乱して警戒します。静かな声でゆっくり動くなど、猫が安心できる関わり方を家族全員で共有すると、鳴き声も穏やかになる傾向があります。
特に男性や子どもがいる家庭では、声のトーンを落とし、急な動きを控えることが信頼関係の構築に役立ちます。
猫の声が低くなる病気の可能性
呼吸器系の異常
声がかすれたり低くなった場合、喉や気管、鼻の炎症が関係していることがあります。ウイルス性の上部気道炎や慢性鼻炎などが原因で声が変化することもあります。
一時的なものなら自然に戻ることもありますが、長引く場合や咳・鼻水を伴う場合は治療が必要です。
甲状腺や神経の異常
高齢猫で声が低くこもるようになる場合、甲状腺機能の異常や神経疾患が関係していることもあります。声帯を動かす神経の働きが弱まると、鳴き声が変化するため、年齢とともに声のトーンが下がる猫もいます。
猫の声を通して心と体を知る
猫が低い声で鳴くとき、それは単なる「気まぐれな声」ではなく、心身の状態を映すサインです。恐れ、不安、体の痛み、あるいはささやかな甘え——。
飼い主がその声を受け止め、無理に抑えつけず、理解しようと寄り添うことで、猫は安心を取り戻します。声は言葉ではありませんが、確かな“会話”の手段です。日々の鳴き声の変化に気づけることこそ、猫との信頼関係を深める第一歩です。