愛猫が毛を過剰に舐めたりむしったりしていませんか?
猫が頻繁に毛づくろいをするのは、ごく自然な行動のひとつです。しかし、その行為が度を超えてしまい、毛が抜けたり皮膚が赤くなるほど舐めたり、自ら毛をむしるような仕草を見せ始めたら、それは単なる習慣では済まされません。過剰な毛づくろいや毛のむしり行動は、猫からのSOSサインである可能性があるのです。本記事では、その原因をさまざまな角度から掘り下げ、放置するとどうなるのか、どう対応すべきかを丁寧に解説します。
ストレスによるグルーミングの異常
ストレスが猫の行動に与える影響
猫は変化に敏感な動物であり、わずかな環境の変化にも強いストレスを感じることがあります。引っ越し、新しい家族やペットの登場、大きな音、留守番の増加など、人間にとってはささいなことでも、猫には大きな心的負担となりえます。ストレスを感じた猫は、その不安や緊張を和らげようとして、過剰な毛づくろいを始めることがあります。この行為は一時的にはリラックス効果をもたらしますが、繰り返されることで皮膚にダメージを与え、脱毛や炎症の原因になります。
精神的な問題が引き起こす「心因性脱毛症」
このようなストレス性の行動が慢性化すると、「心因性脱毛症」と呼ばれる状態に陥ることがあります。これは精神的な不安が原因で、猫が自ら毛をむしったり過剰に舐めたりして、被毛が斑に抜けてしまう症状です。飼い主にとっては、外傷もないのに局所的に毛が薄くなっている様子に気づいた時、すぐに原因に気づくことが難しいかもしれません。ストレス要因を特定し、それを取り除いてあげることが重要な対処法になります。
皮膚トラブルやアレルギーが関与しているケース
皮膚炎や寄生虫によるかゆみが背景にある場合
猫が毛をむしる、舐めすぎる行動の背後には、皮膚に何らかの異常が起きていることもあります。最も代表的なのは、ノミやダニの寄生、細菌や真菌による皮膚炎などです。これらの症状では、猫はかゆみを感じて舐めたり噛んだりし、毛を自ら引き抜いてしまうことがあります。特に背中や尾の付け根、腹部といった届きやすい部位に症状が集中する傾向があります。外部寄生虫が疑われる場合は、早急な駆除と治療が必要です。
食物アレルギーや接触アレルギーの可能性も
猫がある特定の食材に対してアレルギー反応を示している場合も、過剰なグルーミングや脱毛につながることがあります。特に、鶏肉や魚、小麦などに反応を示す猫も多く、皮膚にかゆみや湿疹が現れることがあります。また、猫砂や洗剤、家具に使われている化学成分などが皮膚を刺激してアレルギー反応を引き起こすこともあるため、日常的に触れるものの見直しも検討する必要があります。
痛みや違和感を紛らわせようとしている可能性
内臓の痛みが外的な行動に現れることも
一見すると皮膚や被毛の問題のように見える行動でも、実際には別の内臓疾患が隠れていることもあります。たとえば、膀胱炎や関節痛などの不快感がある場合、猫はその部位を舐め続けたり、周囲の毛をむしるような行動に出ることがあります。これは痛みのある部位を落ち着かせようとする無意識の行動です。病院で診察を受けても外傷が見当たらない場合には、内部的な異常も視野に入れて検査することが大切です。
毛球症(ヘアボール)の前兆行動であることも
毛づくろいが習慣化しすぎている場合
猫は本来非常にきれい好きで、毎日のように全身をグルーミングしています。この際に飲み込んだ毛は体内で毛球として溜まり、やがて吐き出すことで排出されます。しかし、毛づくろいの頻度が過剰になると、毛球の量も増加し、胃腸の負担が大きくなります。このとき、猫は不快感を抱えながらもさらに舐めるという悪循環に陥ることがあり、皮膚の炎症や脱毛の引き金になります。毛球ケア用のフードや、舐めすぎを防ぐ工夫も必要となるでしょう。
高齢猫に多いホルモン異常の影響
甲状腺機能亢進症による過活動行動
高齢の猫で特に注意したいのが、ホルモンバランスの崩れによる影響です。中でも「甲状腺機能亢進症」は、過剰な食欲、活発すぎる行動、そして過剰なグルーミングを引き起こす病気として知られています。被毛が薄くなり、全身にわたって脱毛が見られることもあります。この病気は血液検査によって診断され、治療により症状が軽減することが期待されます。高齢猫で行動が急に変わった場合は、ホルモンの検査も視野に入れましょう。
舐めすぎ・むしり癖を放置するリスク
二次感染や慢性化の危険性
毛をむしる、舐めすぎる行為をそのままにしておくと、皮膚が傷つき、そこから細菌が入り込んで炎症を起こすリスクがあります。猫は痛みを感じてもそれを隠す動物ですので、飼い主が気づいた時には既に炎症が広がっていた、ということも少なくありません。さらに、かゆみや不快感が増すことで、また同じ部位を舐めて悪化させるというループに陥る可能性があります。
習慣化による「常同行動化」の懸念
本来は一時的なストレスや刺激がきっかけだったとしても、繰り返されるうちにそれが習慣となり、ストレスがなくなった後でも舐め続けるようになることがあります。こうした状態は「常同行動」と呼ばれ、精神的なトラブルの一種とみなされます。早期に対応しないと、猫の生活の質(QOL)そのものに影響を及ぼすことになります。
飼い主ができる観察と対応のポイント
日常的な観察が最も重要な予防策
猫の毛づくろいがどの程度なのか、どの部位をいつも舐めているのかなど、日々の観察が何よりも大切です。被毛の状態、脱毛の範囲、皮膚の色や湿疹の有無などをチェックし、小さな変化にも気づけるようになりましょう。違和感を覚えたら、スマートフォンなどで記録を残し、動物病院での説明に活用すると良いでしょう。
病院での受診は早めに行う
行動に異常が見られたら、まずは獣医師の診察を受けることが重要です。症状から原因を特定するには、視診だけでなく、血液検査、皮膚検査、アレルギーテストなどが必要になることもあります。特にホルモン異常や内臓疾患が疑われる場合には、専門的な治療が不可欠です。
環境の見直しも忘れずに
ストレスによる過剰グルーミングが疑われる場合には、猫にとって快適な環境づくりを見直す必要があります。安心できる隠れ場所を確保する、急な変化を避ける、新しい猫や人間との距離感を調整するなど、猫の心を落ち着ける工夫が求められます。また、フェリウェイのような猫用フェロモン製品も、ストレス軽減に役立つことがあります。
まとめ:舐めすぎ・毛をむしる行動は「心と体の赤信号」
猫が自分の毛をむしる、舐めすぎるという行動は、見た目以上に深刻な背景をもっていることが少なくありません。ストレス、皮膚炎、ホルモン異常、内臓の不調、アレルギー、習慣化といった多くの要因が複雑に絡んでおり、見過ごすことは大きなリスクを伴います。日々の観察と、早めの対応、そして環境の最適化が、愛猫の健康を守る第一歩となります。気になる様子が見られたら、迷わず専門家の助けを求めましょう。飼い主の気づきが、猫の未来を大きく変えることになるのです。