犬との散歩中、草むらや湿った場所で見かけることの多いカタツムリ。しかし、愛犬がそのカタツムリを舐めたり食べてしまった場合、ただのいたずらでは済まされない深刻な健康被害に繋がることがあります。とくに近年、犬に広がりつつある「広東住血線虫症(こうとうじゅうけつせんちゅうしょう)」という寄生虫感染症が、カタツムリやナメクジを媒介して犬に感染するケースが報告されています。
本記事では、犬がカタツムリを食べることで起こり得るリスク、感染症の症状や対応策、そして日常の散歩で飼い主が気を付けるべきポイントを詳しく解説していきます。
カタツムリは犬にとってどのような存在か
犬にとってカタツムリは、においや動きが気になる存在です。特に梅雨の時期のムシムシした季節や、雨上がりの地面や草むらなどに出没するカタツムリは、犬の好奇心を引きやすく、舐めたり咥えたりすることがあります。
一見無害にも思えるこの行動ですが、実は見過ごせない病気のリスクが潜んでいます。カタツムリ自体には毒性はないものの、ある寄生虫の中間宿主になっている可能性があるのです。
広東住血線虫とはどんな寄生虫か
犬に感染するルート
広東住血線虫は、元々はネズミなどの小動物を宿主とする寄生虫で、日本でも温暖化の影響とともに広がりつつあります。この寄生虫の幼虫は、ナメクジやカタツムリの体内に潜んでおり、それらを直接食べた犬の体内に侵入することで感染が成立します。
感染後、犬の体内を移動しながら最終的に中枢神経に侵入することがあり、深刻な神経症状を引き起こすこともあります。
犬の体に現れる広東住血線虫症の症状
広東住血線虫症に感染した犬は、以下のような体調変化を示すことがあります。初期にははっきりとした症状が見えにくいため、見逃されるケースも少なくありません。
神経症状
症状が進行すると、後ろ足のふらつきやまっすぐ歩けないといった神経の異常が見られるようになります。場合によっては、けいれん発作や麻痺といった重篤な状態に発展することもあります。
呼吸器・消化器の不調
寄生虫が肺や気管支、消化管に影響を及ぼすことで、咳、食欲不振、嘔吐、下痢などが見られることもあります。
カタツムリを食べてしまった場合の対処法
その場で慌てず冷静に対応する
犬がカタツムリを食べた現場を目撃した場合、まず大切なのは冷静さです。すぐに犬の口の中に残っているカタツムリの残骸を確認し、可能であれば取り除きましょう。ただし、無理に口をこじ開けると犬にストレスを与えてしまうため、落ち着いて対応することが求められます。
動物病院での早期相談が重要
カタツムリを口にした、あるいは食べた可能性がある場合は、症状が出ていなくても念のため動物病院に相談することが推奨されます。広東住血線虫の感染は症状が出るまで時間がかかることも多く、予防的な駆虫薬の処方や経過観察のアドバイスを受けることで、重篤化を防ぐことが可能になります。
散歩中に気を付けるべき場所と習慣
犬の散歩時には、特に以下のような場所や状況に注意が必要です。
湿った草むらや落ち葉の下
雨上がりや曇天時には、湿度の高い場所にナメクジやカタツムリが多く発生します。草むらの匂いを嗅ぐのが好きな犬の場合、無意識のうちにこれらを口にしてしまう可能性があるため、飼い主は注意深く見守りましょう。
夜間や早朝の散歩ルート
これらの時間帯はナメクジ・カタツムリの活動時間と重なりやすく、特に道端や壁際、花壇の周辺に出没することがあります。夜の散歩では懐中電灯で足元を照らすなど、視認性を高める工夫が重要です。
万が一のための予防と備え
定期的な駆虫と健康診断
広東住血線虫に対する特異的なワクチンは存在しませんが、月1回のフィラリア予防薬の中には線虫類にも効果があるタイプが含まれています。かかりつけの獣医師と相談し、予防の幅を広げられるか検討してみましょう。
また、定期的な健康診断を受けることで、万が一感染しても早期に兆候を見つけやすくなります。
散歩コースの見直しも検討する
日常の散歩コースが湿地帯や古い住宅街、公園の植え込みなどの場合は、カタツムリやナメクジとの接触リスクが高まります。乾いた舗装道路や草の少ない広場など、清潔で見通しの良いルートに変更することで、感染リスクを抑えることができます。
飼い主が心がけたいこと
犬が興味を示すものは、すべてが安全とは限りません。好奇心のままに動く犬を完全に制御することは難しいですが、飼い主が日頃から危険性のある対象について知識を持ち、未然に防ぐ意識を持つことが、犬の命と健康を守る大切な第一歩となります。
目を離さずに見守るだけでなく、散歩中に拾い食いや地面のにおい嗅ぎを制限するようなトレーニングを取り入れることも有効です。命に関わる寄生虫感染症から愛犬を守るためにも、「散歩中のカタツムリ」という小さな存在を、軽視しないようにしましょう。
まとめ:カタツムリ=小さなリスク、大きな影響
犬がカタツムリを食べてしまう行動には、私たちが思っている以上に深刻なリスクが隠れています。とくに広東住血線虫症は、見逃すと命に関わる恐れのある寄生虫感染症であり、予防や早期対応が重要です。
散歩時のちょっとした気づきや行動が、犬の健康を左右する大きな分かれ道となります。雨の日や湿った場所での散歩では、犬が何に興味を持っているかにしっかり注意を払い、愛犬が安全に過ごせる環境を整えていきましょう。