マイクロチップとは何か?犬猫にとっての“身分証明書”の役割
マイクロチップとは、犬や猫の皮下に埋め込まれる極小の電子デバイスであり、15桁の固有番号を記録したICが内蔵されています。この番号を専用のリーダーで読み取ることで、犬や猫の身元情報を照合できる仕組みになっています。大きさは米粒ほどで、生体への悪影響はほとんどありません。
装着される部位は通常、首の後ろあたりの皮下で、動物病院などで短時間の処置で済みます。見た目では確認できないため、迷子札や首輪と併用して使用することが推奨されていますが、マイクロチップの特徴は何といっても“外れない身元証明”であるという点です。
犬と猫、それぞれにおけるマイクロチップの義務と普及状況
2022年6月より、犬猫の販売業者に対してマイクロチップの装着と登録が義務付けられました。この制度により、ブリーダーやペットショップから迎えた犬猫には、すでにマイクロチップが埋め込まれているのが原則です。しかし、一般家庭で飼っている既存の犬猫への装着は「努力義務」にとどまっており、すべての飼い主に装着が強制されているわけではありません。
犬においては、もともと畜犬登録制度があるため、マイクロチップによる個体識別が行政と連動しやすい傾向があります。一方で猫は外飼いの文化も根強く、逃走や迷子のリスクが高いにもかかわらず、マイクロチップの装着率が低いままという課題があります。
マイクロチップ装着のベストなタイミングとは
マイクロチップの装着に最適なのは、ワクチン接種や避妊去勢手術のタイミングと重なる生後数か月の時期です。麻酔をかける処置と合わせて行うことで動物にかかるストレスを軽減できます。ただし、健康状態が良好であれば、成猫や成犬になってからでも装着は可能です。
また、里親募集で迎え入れた成犬・成猫については、すでにマイクロチップが入っているかを確認し、不明であれば動物病院でチェックしてもらうことが勧められます。特に保護猫・保護犬の場合は、過去の飼い主がいる可能性があるため、確認作業が重要になります。
義務化の背景にあるペット業界の課題と社会的意義
マイクロチップ義務化の背景には、安易な飼育放棄や身元不明の迷子ペットの増加といった社会問題があります。日本では毎年、多くの犬猫が保健所や動物愛護センターに収容されており、飼い主の元へ戻ることなく命を落とすケースも少なくありません。
特に震災や火災といった災害時、首輪が外れてしまったペットの身元を確認できる唯一の手段がマイクロチップです。こうした“もしものとき”の備えとしても、マイクロチップの装着は大きな意味を持ちます。加えて、マイクロチップによって譲渡履歴を追跡できるため、悪質なブリーダーや無責任な飼い主による問題の抑止にもつながります。
登録と管理の重要性――“入れるだけ”では意味がない
マイクロチップの本来の役割は、飼い主の情報と動物の個体情報を照合することです。そのためには、マイクロチップの装着後、必ず情報の登録が必要です。現在、マイクロチップ登録には「環境省の指定登録機関(AIPO)」と「民間の登録サービス」があり、販売業者から引き継いだ場合は飼い主自身が情報を変更しなければなりません。
飼い主の連絡先や住所が変わった場合にも、速やかな更新が求められます。登録情報が古いままだと、せっかくマイクロチップを装着していても、連絡が取れずに保護施設で足止めされてしまうケースがあります。
首輪や迷子札との違い、そして併用のすすめ
マイクロチップは外れることがありませんが、読み取り機がなければ情報を確認できないという制約があります。そのため、日常生活では見える形での身元表示――つまり首輪や迷子札との併用が重要になります。特に、飼い猫に外出を許している家庭や、散歩中に脱走の可能性がある犬には、目に見える目印と電子的な情報の両方を持たせることで、保護される確率が大幅に高まります。
迷子札に電話番号や名前を書いておくと、見つけた人がすぐに連絡できるため、発見から返還までの時間を短縮できます。マイクロチップと異なり読み取り機が不要な点も大きなメリットです。
動物病院での処置と費用感について
マイクロチップの装着は、動物病院で簡単に行えます。注射器に似た器具で皮下に埋め込むため、時間はわずか数分程度で済みます。料金は動物病院によって異なりますが、装着費用は3,000~6,000円程度、登録料が別途1,000円前後かかるのが一般的です。
一度埋め込めば、特別なメンテナンスは不要であり、デバイスが壊れる可能性も非常に低く、基本的に生涯使える仕組みとなっています。安全性も確立されており、拒絶反応やアレルギーなどの副作用はほとんど報告されていません。
迷子や災害時にこそ力を発揮するマイクロチップの真価
実際に、マイクロチップのおかげで数年ぶりに飼い主のもとへ戻ることができた犬や猫の事例が報告されています。首輪が外れていても、マイクロチップがあれば保護施設や動物病院で身元を確認できます。
災害時には、パニックを起こしたペットが逃げ出すことも珍しくありません。東日本大震災の際にも、マイクロチップが入っていたことで再会できた事例が多数存在します。飼い主にとっては、マイクロチップが“命綱”になるのです。
まとめ:ペットの未来を守るために、今こそ行動を
マイクロチップの装着は、ペットを守る最前線の施策であり、飼い主の責任を果たす一歩です。義務化されたとはいえ、まだまだ装着率は十分ではありません。特に猫においては、装着率の低さが問題視されており、今後の普及が鍵となります。
“うちの子に限って迷子になるはずがない”という考えは、現実には通用しません。迷子、事故、災害、盗難――あらゆるリスクに備えて、マイクロチップはあなたと大切な家族をつなぐ橋渡しになります。ペットの一生を支えるためにも、今できる備えとして、マイクロチップ装着を真剣に検討してみてください。