犬との生活は多くの喜びをもたらしてくれます。しかし、その一方で「何をどこまで管理すればいいのかわからない」と感じる飼い主も少なくありません。特に、健康管理に関しては、正しい知識とタイミングを把握していなければ、犬にとって重大なリスクになる可能性があります。この記事では、犬の健康を守るために最低限知っておきたい基礎知識を、ワクチン、食事、寄生虫予防を中心に丁寧に解説します。
犬の健康管理が必要な理由
犬は話すことができないため、不調を自ら伝えることができません。飼い主が日々の観察や知識によって、異変に早く気づいてあげることが何より大切です。さらに、犬の健康を維持するためには、単に病気になったときに病院へ連れていくという“対症療法”だけでは不十分です。健康でいられる期間を延ばすためには、予防的な観点からのケア、つまり「未然に防ぐ」ための知識と実践が必要なのです。
食事管理─年齢・体質に合わせた食の選択
犬の健康を支える柱のひとつが食事です。子犬、成犬、シニア犬では必要とされる栄養バランスが大きく異なります。特に成長期にある子犬は、骨格や筋肉が急速に発達するため、高たんぱく・高エネルギーの食事が欠かせません。反対にシニア犬は代謝が落ち、体重管理が必要になることから、低脂肪・低カロリーでありながらも栄養価の高い食事が求められます。
また、犬種によっても注意すべきポイントが異なります。例えば大型犬は関節に負担がかかりやすいため、グルコサミンやコンドロイチンが配合されたフードが推奨される一方、小型犬は口腔ケアの観点から歯垢がつきにくい形状のフードが望ましいとされています。
市販のドッグフードを選ぶ際には、「総合栄養食」と明記されているものを基本にし、できるだけ添加物の少ない製品を選ぶことがポイントです。ホームメイドの食事を取り入れたい場合には、獣医師のアドバイスを受けながら栄養の偏りが出ないよう配慮が必要です。
ワクチン接種─命を守るための“予防医療”
犬の健康管理の中で最も基本的かつ重要なもののひとつがワクチン接種です。人間と同様に、犬にも感染症に対する予防接種があります。中でも「コアワクチン」と呼ばれる混合ワクチンは、犬の命に関わる重篤な感染症を防ぐために必須です。
日本で一般的に接種されるコアワクチンには、ジステンパー、パルボウイルス、アデノウイルスなどに対するものが含まれています。これらは非常に感染力が強く、死亡率も高い病気であり、特に子犬にとっては命取りになることもあります。子犬の場合、生後6〜8週から3〜4週間おきに複数回接種するのが一般的で、その後は年に1回程度の追加接種が必要になります。
ワクチンは単に病気の予防だけでなく、社会全体の感染拡大を防ぐ意味もあります。近年では「抗体検査」を実施して、ワクチンの効果がまだ続いているかを確認したうえで再接種の是非を判断する飼い主も増えてきました。過剰な接種による副反応を避けたい場合には、こうした選択肢も検討に値します。
狂犬病ワクチンは法律で義務化
日本では狂犬病予防法により、生後91日を過ぎたすべての犬に対して年1回の狂犬病予防接種が義務づけられています。これは、たとえ国内での発生が近年ないとしても、海外からの持ち込みや不法輸入による感染リスクに備えるためです。万が一、未接種であることが発覚した場合には、自治体からの指導が入り、罰則を受けることもあります。
接種後には「狂犬病注射済票」が発行され、それを犬の首輪などに取り付けておくことが法律上の義務です。接種は市町村が指定する動物病院、または春先に開催される集合注射などで受けることができます。
寄生虫対策─体内・体外の両方を視野に
犬の健康を考える上で見落とされがちなのが寄生虫対策です。寄生虫には体内に寄生する「内部寄生虫」と、皮膚や被毛に取りつく「外部寄生虫」があります。内部寄生虫として代表的なのは回虫、鉤虫、鞭虫などで、これらは消化器官に寄生して下痢や嘔吐、体重減少などの症状を引き起こします。一方、外部寄生虫にはノミ、ダニ、シラミなどがおり、皮膚炎やアレルギーの原因になります。
特にフィラリア(犬糸状虫)は蚊を媒介して感染し、心臓や肺動脈に寄生することで死に至る危険な病気です。フィラリア予防薬は、蚊が活動を始める春から秋にかけて、月に1回与えるタイプが一般的で、錠剤、チュアブル、スポットオンなどさまざまな形態があります。投与のタイミングや頻度は地域や犬の体質によって異なるため、かかりつけの獣医師と相談して適切なプランを立てることが重要です。
健康診断─年に一度の定期チェックを習慣に
犬は人間よりも寿命が短く、1年で4~7年分もの年を取ると言われています。そのため、人間以上にこまめな健康診断が求められます。特にシニア期に入る7歳以降は、目に見えない病気が進行しているケースも多く、血液検査やレントゲン、超音波検査を含む総合的な健康チェックを年に1回以上行うのが理想的です。
定期的な健康診断により、早期発見・早期治療が可能になり、寿命の延伸や生活の質の向上にもつながります。また、診断を通じて食事や運動、ワクチンの見直しを図ることもできるため、単なる病気の検査という枠を超えた“生活習慣の見直し”の機会にもなります。
日常のケアも忘れずに
病院での健康管理だけでなく、飼い主が日常的に行うケアもまた健康維持において重要です。ブラッシング、耳掃除、爪切り、歯みがきなどの基本的なケアを習慣化することで、病気の予防につながるだけでなく、犬との信頼関係も深まります。
特に歯のケアは軽視されがちですが、歯周病は犬の健康に重大な影響を与えます。歯周病菌が血流を通じて全身に回ると、心臓や腎臓にまで悪影響を及ぼすこともあります。市販の歯ブラシやデンタルガムを活用しつつ、獣医師による定期的な口腔チェックも受けるようにしましょう。
最後に、犬の健康は“積み重ね”で守るもの
犬の健康は、特別な薬や治療に頼るのではなく、日々の積み重ねによって守られていきます。正しい食事、適切な運動、定期的なワクチン接種や寄生虫予防、そして健康診断。これらの要素をバランスよく実践することで、犬はより長く、より健康的な人生を送ることができるのです。
情報が多くて混乱してしまうこともあるかもしれません。しかし、一歩ずつで構いません。今日できることを、まず一つ始めてみてください。愛犬の健康は、あなたの小さな行動から確実に変わっていきます。